読み方 「 天際に 銀幟 ( ばん ) 立ち、 鴟夷 ( しい ) 怒り 未 ( いま ) だ消えず。定めて知る千載の上、江水 潮 ( うしお ) を生ぜざらん。      ― 朱 舜 ( しゅん ) 水作、銭 塘 ( とう ) ―」
通釈 大空に向って銀色の旗のような大波が逆巻くのは、袋詰にされて川にすてられた 五子胥 ( ごししょ ) の怒りが、まだしずまっていないのだ。きっと千年前には、この川の水は、このような高潮を起こさなかったにちがいない。
語釈 朱舜水 (1600-1682。中国明 ( みん ) 末清 ( しん ) 初の儒学者。日本に帰化し、徳川光圀 ( みつくに ) に仕えた。) 銭塘(中国浙江 ( せっこう ) 省の川の名。夏、逆流の潮が大きく、銭塘潮などと呼ばれ、唐初以来、今日まで、訪れる見物客が多い。これを観潮という。 ) 天際 ( 天のはて。大空 ) 銀幟(銀色の旗) 鴟夷 (馬の皮で作った、酒を入れる袋。春秋時代、五子胥の遺体はこれに詰められて江中に投げ込まれたという。五子胥は呉王夫差 ( ふさ ) に仕えて功績があったが、側近の讒言 ( ざんげん ) を信じた夫差によって自殺を命ぜられた。)

【講評】 筆路に磨きのかかった首席作品です。