「 古今和歌集仮名序 」




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和歌というものは、人の心情をもととして、それがさまざまのことばの花として咲き出たものである。

この世に住んでいる人は、あれこれと事が多いものであるから、

その心に感じたことを、見るもの聞くものに託して言い表したものである。

( 否、それは人間だけのことでなく ) 梅の仲でなく鶯や、水にすんでいるかじかの声をきくと、

この世のいっさいの命あるものは、どれ一つとして歌をよまないものはないのだ。

( ましてこの国に生まれた人間として、和歌をよまずにいられようか )

力を特別に加えないで天地を動かし、目に見えぬ霊界の鬼神をもしみじみと感動させ、

また、人間男女の間をも和らげ、勇猛な武人の心まで温雅にするものは歌である。

 

古今和歌集は九〇五年後醍醐天皇の勅命により紀友則・紀貫之・凡河内躬恒が選進したといわれる。

序文は仮名序を紀貫之、真名序を紀淑望の手になったとされている。

仮名序はわが国の歌論、ひいては文学論の始祖として重要な史的意義を持ち、

それ以前の中国の直輸入の文化に対し、日本歌学・歌論の独立の宣言にも似た抱負と理想に燃えたものある。